ン…なんだこりゃ、歌か? | |
誰だ、こんな真似をしているのは | |
私じゃないわよ | |
分かってる。この先だな… |
アイツが歌っているのか… しかし、何故こんな所まで来てひとりで歌ってンだよ | |
俺達より先に、しかも単独でここまで到達して平然と歌なんか歌っているとなれば、冒険者として見るには不自然だ。 恐らく、こちら側とは隔離された別の文明圏…おそらくこの大地に住まう人間だろう | |
ここに住む人間ってことは、ウロビトと関係があるのかしら? ちょっと声をかけてみましょう | |
そうだな、ここは俺に任せてくれ… ちょいとお嬢さん、そこで何をしているのですか? |
怖がらなくても大丈夫、君が何故こんな場所にいるのかが気になっただけで…… |
何だッ!? この子が呼んだのか!? | |
さーァねえ。アレは少なくとも私達の味方じゃなさそうよ |
チッ、あの娘を助けるぞ! |
ザコよりちょっとばかしタフだったけど、初見で撃破できたわね | |
この辺の敵みたいに状態異常をかけてこなかったから楽ができたな。 こっちの回復手段はアイテムだから、封じで回復手段が断たれることもなかった |
まあまあ、気にすることはないって。 可愛い女の子の前でええカッコしたがるのは男のサガだからね | |
おいおい、俺は襲われたのが年寄りでも関係なく助けるぞ | |
どうだか。マーカムは女の子に対しては愛想いいもんね | |
あー確かに前に兵士と商談した時とは態度が全然違うよな | |
ぐ、お前ら二人とも… |
ッたりめぇだろうが! 俺らが森の獣に見えるか? |
『世界樹の言葉』ですって……!? | |
そ、そうだな。俺達がここでめぐり会えたのもその世界樹のお導きかもな、ははは… | |
そんなものを頼りにこんな危険な場所に来て、さらに実際に俺達に会っている。 とくれば、ただの電波じゃなさそうだな… |
世界樹の言葉を受け取る巫女ってことなのかしら。すごいわねぇ 私達はワイルドリザードっていう… ええと、どういう風に説明したらいいのかしら? | |
ちょっと待て。また何か来るぞ! |
アンタぁ確かウロビトの… |
残念ながら私達は、その敬意を持って接する人間ってのには該当してないのよね | |
もしここで荒事を始めるようなら、ウロビトとも容赦なく戦うことになるな | |
お…おい、仮にも恩人相手にシノギ削るつもりか! | |
いくら要人とはいえガキの監督不届きを棚に上げて喧嘩始めるアホと正面から付き合うのは御免だ。 ただし、手を出させるのは向こうが先だ。無用な争いは避けるのが賢い |
どうなるかは、巫女ちゃんの仲裁次第かしら |
良かった。恩人と戦うのは気が重かったからな | |
里があるなら、そこでゆっくり話をした方がいいわね。 こんな所で話をしてたら、逢引と間違われちゃうかもしれないもの |
巫女の願いは叶えられねばならぬ…って、ウロビトは巫女に従っているって事なのか? | |
巫女の発言力がどれだけ強いかによるな |
…結局、巫女ちゃん個人には気に入られたけどウロビト全体との関係はまだ微妙な感じよね | |
ああ。しかし、なんで巫女は人間に会っただけであんな大騒ぎしなきゃなんねェんだろうな | |
あっち側では人間は珍しい存在なんじゃないの? こっちがウロビトに初めて出会った時のように、向こうも驚いているのよ | |
とにかく、里まで会いに行って話をしなきゃな | |
ああ、そうだな……… | |
どうしたのよ、何か腑に落ちない所でもあるの? | |
…世界樹の言葉の主は何故俺達と巫女を接触させたのか気になってな | |
確かに、ウロビトは人間との関わりは持ちたくないと言ってはいたが… | |
それだけじゃない。明らかに行く手を遮る形に作られている大地の構造から考えても、 過去に世界樹に関わった人間が世界樹の近くから人間を排するように仕組んでいるとしか考えられないんだ | |
私達タルシスの封印みたいなのを解いてこの大地に来ちゃったワケだし、 それに対して世界樹側が何らかのアクションは起こしてもおかしくないわよねぇ | |
長い間別々になってたから、向こうもこっちの事を知ろうといているのかも知れねぇな | |
あるいは、世界樹に近づく者を葬るための罠かもね。 可愛い女の子を囮にして、後ろからグサーッってやっちゃったりとか | |
いや、問題はそこじゃないんだ。世界樹の言葉とウロビトの方針が噛み合ってない事が問題なんだ | |
絶縁して復縁もしないのが、ウロビト側と人間との関係だったハズよね。 世界樹の言葉の主が、ソレを破るように仕組むってことは… | |
何か別の考えがあるって事か? そう考えなくても、世界樹を去った人間を再び迎え入れるように使いを出したンならそりゃそれでおかしくねえだろ | |
それならば、ウロビトに巫女経由で人間への対応を変えるよう伝えたら充分のハズだ。 だのに、なぜわざわざ里の外で巫女と逢引じみた形で接触させようとしたんだ? | |
それは……分からねェ | |
世界樹の言葉の主の行動とその意図には、何か裏があるやも知れん。 向こうの手のひらで踊らされないよう、後々気をつけねばならんな |
森の中にこんな里があったとはな。 しかし、この擬装は一体何のために… |
あら、門番ご苦労様。私達は巫女に呼ばれて来たんだけど… | |
お、おいちょっと待てよ、何で俺達に弓射る準備するんだよ。話が違うぞ! |
そういうことだ。通してもらうぞ |
それにしても、人間が見当たらないな。 この里にはウロビトしかいないのか? | |
そのウロビト達の雰囲気にしても、あまり良い感じじゃないわよねぇ | |
ああ。巫女の方も…なんというか、ちょっと雰囲気悪いのを気にしてるみてぇだ | |
ウロビトは人間との接触は望まないって言ってたからな。 この里に俺達を招くという巫女の願いは、これと矛盾していることになる | |
それ故に、ウロビト達の反応は冷ややか…って感じね。 巫女ちゃんの方も、それを薄々感づいてるのかしらねぇ |
ああ、そんじゃ遠慮なく頂くぜ | |
じゃあ毒見は任せたわよ | |
こらこら | |
ふふ、冗談よ。巫女ちゃんも一緒に食べましょう |
俺達はひと山当てるために冒険の途中なンだ。一から話せば長くなるなァ | |
食べ物は…保存食があったわね。ご馳走の礼にいくらかあげるわ | |
味は粗末なモンだけどよ、家族ン所へ土産に持っていくと話の種ぐらいにゃなるぜ | |
そういえばこの里にはウロビトしか見当たらないが… 人間は別の集落にいるのか? |
わ…悪ィ、ちょっとデリケートな事聞いちまったぜ | |
なるほど、人間を珍しがるワケだわ。 自分が最後のひとりだったハズの人間と出会えたから、お友達になりたいのでしょうね |
…! マズい質問が来たな。 いいかみんな、この質問には答えるなよ | |
なにッ どういう理由でそうするンだ? | |
外の人間の世界へ対して、巫女がこれ以上興味を持たないようにするためだ。 人間の社会がここでは想像のつかない程の規模だと知ったらどうすると思う? | |
行きたい!見たい!触れたい! …とダダをこね始めるわね、きっと。 そうでなくとも、外の世界をさらに知るために更なる行動を起こすのは明白だわ | |
そうなれば、ウロビト達は間違いなく巫女に反発するだろう。 最悪の場合だと、外部との関係を隔絶するために巫女を幽閉して里の門を固く閉ざすことも考えられる | |
そんな事されると先に進めなくなるわよ。 ここまでの迷宮は一通り調べてあるけど、どうも奥に進むためにはこの里を通過する以外に無さそうだからねぇ | |
他の奴らはともかく、俺達は巫女を助けたから特別にお目こぼしをしてもらっている。 …つまり、この先に進める可能性があるのは現状では俺達だけだ。 このチャンスを無駄にするわけにはいかないだろう? | |
…そういう事か。巫女には悪ぃが、急ぎすぎるのも良くねぇからな | |
少なくとも、この迷宮から世界樹へ近づくために必要な何かを手に入れるまでは、 この里を通れる状態を維持せねばならない |
んー、ごめんねぇ。 ちょっと事情があって、それについてはまだ言えないのよ | |
まあ、ここに至るまでの道程は険しいものだったのは確かだったけどな |
(この里から初めて出会った場所まで、最低1回はエンカウントする距離だと思うのだが… 無闇にツッコミを入れるのも無粋か) |
君は、巫女を箱入りにしている割には監督不届きだったウーファン女史ではないか | |
早速きっつく毒吐いてるわねぇ | |
お前、本音では平和的に解決するつもり無ぇだろ… |
これ以上の語らいは我慢ならないって感じね。もしかして妬いてる? | |
まあ、こちらとしてもいずれ聞くつもりだったから、聞かせてもらおうか |
最初に会った時に話した『人間との絆を聖樹の守り以降断った』という話の詳細のようだな | |
要するに、危機から逃げだした人間は村八分にして、残ったひと握りの人間と暮らしているって事なのね |
巨人との戦いから逃げた人間と逃げなかった人間がいて、戦った方は唯一にして真の人間か | |
これって、もしかして…… | |
やはり、お前も思いついていたか | |
いいぞ ベイべー! 逃げる奴は人間だ! 逃げない奴は唯一にして真の人間だ! ホント巨人退治は地獄だぜ! フゥハハハーハァー | |
仲良くふざけるな!! | |
それにしても気になるのが世界樹側の人間…巫女ちゃんの事よね | |
文字通りの唯一の存在になっちまってるんだよな。 絶滅寸前じゃねえか | |
巫女が死に絶えちゃったら、どうやって世界樹から神託を授かるのかしら。 こうなったら巫女ちゃんにはちょっと早いけど、一族の繁栄のためにひと肌…… | |
それは犯罪です! | |
むしろ、彼女の言葉は父母が元々存在していないかのような発言だったな。 巨人から逃げたかどうかがが分かれ目になって、こちら側の人間とは何かが違っているのだろうか? |
しかし、大誤算だったな。 ウロビトの外部から来た人間に対する印象がこうも悪かったとは…… | |
どうやら、ここまでのようね |
あーあ、巫女ちゃんのワガママもここまでかぁ | |
ちくしょう! あの子が人間の友達を持っちゃいけねえのかよ!? | |
確かに人間の巫女ちゃんからすれば同胞かもしれないけど、 ウロビトを始めとした人工種族にとっては受け入れがたい存在だからねぇ。 瘴気の森で見捨てられなかっただけでも、かなり寛容な態度だと思うけど? | |
…これから、どうしましょうか? | |
うーむ、どうしたものか… | |
これ以上先へ進むには、強引な手しか無いんじゃないの? | |
そうだな。 今もらった術式書を使って里を焼いて更地にするか、巫女を誘拐してウロビトに従うよう脅迫するか…… | |
悪魔の所業じゃねえか! | |
とはいえ、個人レベルでの行動で問題を解決することは不可能に近い。 仕方ないな…… こうなったら、国家レベルの外交でケリをつけてもらうしかないな | |
妥当なのはそれしかないか。後で統治院にかけあってみましょう | |
というわけで、今日はここまでだ。引き上げるぞ |